愛しいせつなさ

「愛しいせつなさ」

その二人とは面識がなかったけれど、彼女たちを見るなり、 あ、弟の病院の看護婦さんが手伝いに来てくれてはるんやな。 と勝手に納得していた。 夢の中の弟とは、すんなり会話することができた。 実際の弟とは、かれこれもう10年以上まともに口をきいていないのだけど。 どんな話をしていたのかは、忘れてしまった。ちょっと残念だ。 いつのまにか実家の両親も現れた。 弟を囲みみんなで和やかに話をした。 帰り際、みんなでエレベーターを待っている時に、 夢の中の母が、えらく小さく見えた。それだけでなく横に広がっているようにも見えた。 顔を見ると、それは実際の母ではなく、全然知らない人なのに 夢の中の私も、子どもたちも、父も、みんなその知らない人を母だと思い込んでいた。 「お母さん、疲れてるんちがう?目の下にクマできてるで」 そんなふうに私は心配して母に声をかけていた。 夢の中の母は、目の回りが、パンダみたいになっていた。 「そりゃあ、若くみえたって、私も歳やし、しんどいねんで」 と母は弱弱しくこたえた。 「でもな。さっきエレベーターで会った人に、10歳も若く思われてたわ」 と、えらく無邪気に話していた。 ああ、いつまでもいつまでも こんなふうに父と母と子どもたち、そして弟と いっしょにいられたらええのになあ。 エレベーターを待ちながら、夢の中の私はそんなふうに心から願っていた。 どうってことのない、他愛もない日常を、夢の中の私は ものすごく愛しおしんでいた。 目が覚めたら、なんともいえない感傷に襲われ 胸が苦しくなった。

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